電気力線と電子力線

既に述べたように、歴史的にフランクリンやクーロンの時代に「電気はプラスからマイナスへ流れる」という、仮想的な電流という考えが先に定着してしまいました。電子が発見されたのはずっと後(1897年)で、すでに電場・電位・電流の向きなどが「プラス→マイナス」の方向で一貫して定義されていました。

この歴史的背景により、物理学や電気工学での電気力線(電場線)の矢印の向きは、「電子がどう動くか」ではなく、定義的上「正の試験電荷(+のテスト電荷)が受ける力の方向」と決められています。

ここで、電荷とは 「物体が持っている電気の量」 のことで「電気の正体そのもの」や「電気現象の根本的な原因」 となるものです。 電荷は、正電荷(+)と負電荷(-)の2種類のみ存在します。普通は Q または q で表し、単位 はクーロン (C)です。

1Cは、 1アンペアの電流が1秒間流れると運ばれる電気の量 です。これ以下には分割できない最小単位の素電荷は、電子1個分の電荷 ≈ 1.602 × 10⁻¹⁹ Cです。

物理学では「正の点電荷」とは、「電子が欠けている状態」 または 「陽子が余っている状態」 をモデル化した抽象的なものです。現実の物質で最も近いものは 陽子(+e) ですが、陽子は原子核の中に閉じ込められているため「純粋な+だけの点電荷」 は自然界に単独ではほとんど存在しません。

クーロンの法則とは、 2つの点電荷の間に働く静電気力(クーロン力)の大きさと向きを表す基本法則です。
真空中の2つの点電荷 Q₁ と Q₂ が距離 r だけ離れているとき、
互いに働く力の大きさ F は
  F = k × |Q₁ Q₂| / r²
  F:クーロン力の大きさ [単位:N(ニュートン)]
  Q₁, Q₂:それぞれの電荷の量 [単位:C(クーロン)]
  r:2つの電荷の間の距離 [単位:m(メートル)]
  k:比例定数(クーロン定数) ≈ 9.0 × 10⁹ N·m²/C²
   (正確には k = 1/(4πε₀) で、ε₀は真空の誘電率 ≈ 8.85 × 10⁻¹² C²/N·m²)
    Q₁ と Q₂ が同じ符号の場合(両方+ または 両方-) → 斥力(お互い離れる方向)
    Q₁ と Q₂ が違う符号の場合(+と-) → 引力(お互い近づく方向)
    力の向きは必ず電荷を結ぶ直線上に働きます。

従来の電場(電気力線)の定義は、「+1[C]の試験電荷が受ける力の向き」となっています。
   電場ベクトル E の定義:E = F / q (q → 正の試験電荷の電荷量)

   F はその試験電荷にかかる力 で、 q が正(+)
すなわち E の向き = 正電荷にかかる力の向きになっています。

物理学や電気工学の文献、教科書では、このように電場の矢印と電子(負電荷)の運動方向は逆に定義されていて、 正電荷の近くでは、E は外向き(放射状に外へ) 逆に負電荷の近くでは、正の試験電荷は引き寄せられる → 内向き(向心的に内に)なるように電気力線が描かれています。このことが、仮想的な電流の存在を助長している一因ともなっているのではないでしょうか。

正の点電荷は、「電子が足りなくなった場所」の代理表現 (現実には陽子の電荷がむき出しになった状態に近いのですが、厳密には「電子欠損」)です。 だから電気力線の絵で 「+」から力線が外に放射状に出ている のは、「そこに電子が足りなくて、他の電子が引き寄せられようとしている」ことを矢印で表現しているともいえます。しかし、自然界で自然に発生するものは、放射性崩壊で出るα線以外ではほとんどありません。特筆すれば、加速器や宇宙線の世界でたくさん存在しますが、日常の放射性物質から自然に出てくるのはほぼアルファ線だけ、というのが現実です。

以上によって、旧来の膨大な量の学術的、現実的な問題はあるにせよ、地球上のごく日常一般的には、電子の運動を基準に考えれば、厳密な物理的、電気的な自然な定義として理に適っているのではないでしょうか。

そこで、下図のように電子の運動を基準に考えたマイナス電荷とプラス電荷の間に働く、電子力線という概念図を提案します。

マイナス電荷とプラス電荷による電子力線の例